「日本のおっぱい」乳がんダイアリー

2011年乳がんになりました。

されど髪の毛

抗がん剤治療の副作用、と言うと真っ先に「髪がぬける」。全身がだるいとか、吐き気がするとか、力が出ない、貧血、感染症にかかりやすいなどなど、もっと実は深刻な副作用はたくさんあるのに、どういう訳か、皆「副作用は、髪がぬけるのですか?」と気にします。

それほどに、「髪の毛」というのは誰にとっても大切なものなのでしょう。

私の場合は、一種類目(EC)の抗がん剤治療の途中に抜け始めて、うっすらと細い髪の毛が残る位までになり、二種類目(タキソール)の治療の時はほとんど抜けず。結局、ツルツルのはげになることはありませんでした。

ウィッグを付けるのもかったるくて、普段はスカーフや帽子をかぶっていました。抗がん剤治療と手術も終わったら、少しずつ、髪がはえ始めて、手術後三ヶ月後には美容院にも行って毛先を揃えました。(最初は野球選手の坊主頭くらい)後は面倒くさくなって思い切って頭には何もかぶらずに過ごしていたら、いつも行くお店の人やたまに会った友人に、「へえ、また随分思い切ってショートヘアにしたんですね。」と言われて、こちらがびっくり。抗がん剤治療中にも、会っていた人たちにです。「いえいえ、これでも伸びたんですよ」と訂正することもないので、「はあ、まあ。」と曖昧な返事をしていましたが、人は自分が意識している程には、他人のことを気にして見ているわけじゃあないんだ、と思い知りました。抗がん剤で、へとへとになって歩いてても、病気だということが案外と外からはわからなかったかもしれないですね。

そうそう、髪の毛。手術から一年経った去年の8月頃、もう20年来のお付き合いの美容師さんに、「あ、もう完全に髪の毛が元にもどったね。」と言われた時は、「完全にカラダが元にもどったね。」と置き換えて聞こえました。

それどころか、細かった髪の毛が太くなって密になって、白髪も病気前より少なくなった、というボーナス付きです。「僕のお客さんにも、何人も抗がん剤治療を受けた人がいるけど、こういうことって珍しいなあ。よかったね。」と彼。

「髪の毛って本当にまだまだわからないことが多いんだよ。カラダの中で専門医がいないのは、髪の毛だけでしょ?『毛髪科』って診療科目ないでしょ?髪の毛って大切なのに、トラブルがあっても、何科に行ったらいいか困るでしょ。」
…なるほど。

カラダの調子が悪いと髪の毛のつやがなくなったり、ストレスからか円形脱毛症になったり、と、カラダのどこかの不調が原因で髪の毛に症状が出ることがあるのに、西洋医学では髪の毛の色つやを診断の目安にすることは余りないようです。

それにしても、だんだん髪の毛が伸びてくると、洗面所に落ちている髪の毛を掃除しなくちゃいけません。「少ない時は楽だった」と思ってしまいます。何事も良い面と悪い面はありますね。

風邪ひいたけど…

1月12、13、14日の三連休は、関東地方は大雪。そしてその三日間は、私も風邪で39度近い熱を出して寝込みました。

熱でうなされながら、ずっと頭の中をエコーしていたのは、「病気の犬は、半分の目で見るのよ。見つめすぎちゃだめよ。」と言われたこと。私と同じ日から具合が悪そうなギュネイが心配で、でも自分のカラダさえ言うことをきかないんだから、それどころじゃない。

お休みで家族はいたけど、一階でギュネイ、二階に私。と、どちらも寝込んでいて、様子を見に行くこともできません。

その時突然、ああ、ギュネイが念力で私に風邪をひかせたんだと、とんでもない考えが降りて来ました。「気にしてくれなくて、大丈夫。自分のカラダのことだけ、考えていていいから。僕は僕。」と彼の心の声が聞こえたような気がしました。

私たちより小さいので、つい忘れてしまいがちだけど、犬は、絶対人間より強い。カラダも体力も何もかも。素手だったら、私たちなんて簡単に犬にかみ殺される。ただし、犬がその気にならないだけで。多少、寒くても暑くても、痛くても何でも、彼らは平気だし、ましてや弱音をはきません。

それほど頑強な彼らに「大丈夫?」なんて、甘い声を出している私たちは、犬から見たら、やっぱり大分おバカさんに見えているのかもしれません。

おたんこナースの思い出

いつの間にか、手術(2011年8月15日)から1年5ヶ月がたってしまいました。ほんとうに、「いつの間に」?

手術の翌々日に、心配してくれいたお友だちに書いたメールが出て来ました。

「大学病院のせいか、ここは若手も多くて、おたんこナース1、2、3までいるの。皆、今年の新卒。

1は、採血の針が入らなくて三カ所刺しても失敗。先輩を呼びに行きました。

2は、はー、ってため息ばかりついていて、『ふうー、熱、計ろうかな…』とか、『ふうー、血圧、計ろうかな…?』とかつぶやく。この子が、術後の夜勤で一晩中、一時間ごとに見守りに病室に来て、『はー、大丈夫?』なんて聞かれて、結構元気が失せた。翌朝、私の顔付きを見て主治医たちが病状が悪くなったと焦った位、彼女の負のオーラにはやられました。(⌒-⌒; )

3は、元気で明るいのが取り柄。だけど、自分が元気なので、病人がへばってるのがわからない…

オタンコナースを笑い飛ばす余裕が出て来ました。この子たちも、いつかは、白衣の天使と呼ばれるようになるかしら(^o^)」

思い出しました!おたんこナースたち。No.2のナースはそれにしても、ひどかった。今頃、どうしているのでしょうか?No.3については、妹への別メールでも触れてます。

「夕べ、あなたたちが帰ってから、実は今までの部屋は、婦人科の病室を借りてた、重病の新患が来る事になった、でも、乳腺の個室は一杯で、って。えー、四人部屋はいや、眠れない、とか訴えて、今朝まで、色々調整してくれてたみたいだけど、結局はダメ。気候のせいで、重病が多いのか?まあ、私は、ここでは、重病のうちに入れて貰ってない、ということか?

今朝は、オタンコナース パート3で、パート2よりは明るく元気だけど、自分が元気な分、病人への想像力が足りず、『はーい、じゃあ、あと15分位で、お部屋片付けて、移りますよ!』とあくまで元気。手伝ってくれるかと思えば、チェックに来ただけで、『小物は、紙袋に入れられますか?えー、ない?じゃあ、ビニール袋持って来ますから入れてください。』おいおい、さっきあなたが熱を計って、今日は熱ありますね、大丈夫ですか?って言ったばかりだろう…

結局、その後一時間たっても動けずにぐったりしていたら、ベテラン看護師さんが荷物をベッドに乗せて、楽々運んでくれました。ああ、こんなちょっとしたことで、病人の体調も変わるんだ。」

どのナースも、胸章に「新人」のマークをつけていました。8月だったということは、看護師としてスタートして4ヶ月目。息子と同じ年頃でプロフェッショナル、と考えると、たいしたものだな、と思えたり。こうやって、患者も看護師も鍛えられます。

iPS細胞とおっぱい

山中教授にノーベル賞では一歩先を越されてしまった旧友K教授からのメールです。ご本人の承諾をもらって、引用します。話題のiPS細胞と私の病気が関係してるなんて、思ってもみなかった。前から、疑問でしたが、なんでおっぱいは「再建」っていうのでしょう?英語だとreconstruction(!)ですよ、建築物扱い。

K教授は書きました。
「おっぱいに限らず、これからの医学の柱の1つは「再生(再生医療)」です。iPS細胞を用いた胸の再生も今後の期待の1つになりそうですね(ハードルはいろいろありますが)。

昨日のニュースでも、iPS細胞から腎臓の一部の細胞を作ることができたそうです。私達の体の細胞は高度に特殊化している細胞ですが、それをリセット(正確な表現ではないですが:受精卵や小さな胚の状態に戻すこと)したのがiPS細胞です。
ヒトの場合、体細胞のリセットは不可能と考えられていたのが、山中先生の研究で可能になりました。

しかし今後の課題は、リセットしたiPS細胞を、どうやって再び特殊化した様々な細胞に分化させるかどうか、ということです。その部分で、私も微力ながら貢献したいと思っています。
乳首も作れるといいのですが。。」

彼は、美しい乳首の再生をこれからの人生の(いえ、学術的な?)テーマにしたい、らしい。

「灰とダイヤモンド」

13日の日曜日。偶然、特急電車の中でお友達と一緒になりました。池袋に到着するまで40分間お隣の席でおしゃべり。

「ギュネイが死んだの。」
「まあ、どうしてるかと思ってたの。それで、どうしたの?」
(この質問は、他の人にも結構聞かれました。「どのように埋葬したか?」という意味です。)

「軽井沢のお庭に埋めたの。お友達が一緒に土を掘ってくれてね。」
「まあ、うちの犬はね。ゴールデンも、シーズーも火葬。動物の葬祭場で。火葬もね。個別と合同があるの。うちは個別にしたわ。人間みたいに、しばらく別室で待っていて、お骨を拾うこともできるのよ。料金はね、体重で決まるんだけど、結局個別っていう部分の値段が高いのね。二頭ともほとんどかかった費用は変らなかった。7万円位。」
「ほー。」
「お骨は、今私の寝室にあるのよ。それから、主人がほしくて骨からダイヤモンドを作ってもらったの。」
「へー?ダイヤモンド?聞いたことがあるけど、それって、どの位の大きさになるの?(汗)」
「値段次第よ。うちのは0.4カラットかな?」
「??0.4カラットってどの位の大きさなのかわからない。(持ってないから…)」
「ほら、私の今してるネックレスの大きさ。主人はね、プラチナの台にはめてもらったの。ペンダントにすることも出来るしね。」
「はー。」

調べたら、人の遺灰からダイアモンドを作ることも出来るらしいです。私の知っているのはペットだけだったからびっくりしました。Wikipediaによると、この技術を持ってサービスをしている会社は、アメリカ、スイス、日本に各一社あるだけ(2011年10月現在)とか。曰く「現在こういった合成ダイヤモンドに使用された炭素の起源を科学的に証明する方法はない。」

「Perfect Scars Book」

去年の6月の記事について。

シドニーの魔女医ことセリーナのお友達が乳房の再建手術をして、乳首にハートの入れ墨を入れたって話しを書いたら、高校のクラスメート(♂)が「あなたがハートの入れ墨したら、見せてくれ。」とメールしてきました。これこれ!もしそんなことがあっても、もったいなくて見せられない。

その後すぐに、セリーナが送って来てくれたビデオにハートのご本人の写真があるので、それでも見て下さい。
http://www.rockethub.com/projects/6866-perfect-scars-book-project
このビデオは、「Perfect Scars Book」(「無敵の傷跡」(我ながら、変な日本語。「完全なる傷跡」?「美しい傷」?)というタイトルの写真集を作るので、資金を集めるためのプロモーション用。(プロジェクトは無事完了した、とあるので、写真集も出版されているのでしょうか?)

写真には、乳がんだけじゃなくて、他の手術の傷跡をもった老若男女のモデルがきれいに写っていて、思わず引き込まれました。

モデルになった人たちのコメントに、ジンと胸があつくなります。
「この本は、乳がんの手術に迷っている人に希望を与えると思います。手術した後の人生も輝いています。私自身は、再建をしてそれを受入れていますが、他の人の手術の傷跡を見てとても綺麗だと感じました。」

「傷跡があったって、それがあなたを決定づけることにはなりません。傷跡は、私たちがどんなに大変な出来事に出会ってしまい、どんなにドラマチックな経験をしたかを表すことはあっても、それが私たちの人生を決定することにはなりません。」

傷跡の写真集なんて、素敵です。人に見せたらいけないんじゃないか、と思っている人はまだまだたくさんいると思うので。

私も、そろそろ温泉に入りに行ってみようかな。

犬のホスピス?

一ヶ月以上、夜中に家族で交代で2、3時間おきに、ギュネイにおしっこをさせていたので、久しぶりに朝まで続けて寝られるようになって、疲れがどっと出ました。

犬の緩和治療、は食べ物と排泄の管理です。食べ物は、鶏や豚の内臓を茹でて与えたり(「以臓補臓(いぞうほぞう)」といって、悪い内臓は他の動物の内臓を食べて直す。)、前にも書いたマグロの血合いや鶏の足(もみじ)を大量に煮たり。(ちなみに、もみじって、赤ちゃんの手みたいなのです。大鍋一杯煮ていると、自分が西洋の魔法使いになったような気分がして、ちょっとおぞましい。それから、爪の部分を切り取るのも、もっとおぞましい…(笑い)ホラー映画みたい。)

勉強中の中医学の考え方だと、「排泄」はとても大切。身体の中の邪気をを取り除く、例えば、おしっこをすることで、炎症を起しているところの熱や、余分な水分も外に出しします。(『瀉法』といいます。)

おしっこは、ギュネイが行きたい、行きたくないに関わらず、夜中でも3時間おきには外に連れ出してさせました。夜中のおしっこは眠ているところを起すので、他の家族が「おしっこ行こう」と声をかけても寝ぼけ眼で無視することもあったらしい。でも、そんな時でも私が楽しそうに「ギュネイ!」と誘うと、ぴっと起き上がって、しっぽを振りながら早足でついて来るので、眠い夜中の行事もそれ程は苦にはなりませんでした。おしっこをしたら、お夜食に鶏の足をたっぷり食べて、またお互いにベッドに戻る午前二時。

ともかく、沢山食べさせて、沢山排泄させる。

我が町内は、2軒隣に9月からほとんど寝たきりになってしまった17才の日本犬グリ。その向こうには同じ16才のおばあさんラブラドールのリア。新しく越して来た心臓肥大の毛の長い柴犬(?)に、我が家のリンパ腫患者。と、にわかに「犬のホスピス」化。

黒ラブのリアは、ギュネイが具合が悪かった12月29日に老衰で死にました。
(在りし日のギュネイ)