「日本のおっぱい」乳がんダイアリー

2011年乳がんになりました。

「標準治療」とは…

一人でセカンドオピニオンを聞きに行くのが心細かったのかもしれません。用もないのに、車に大きな犬を二頭も乗せて、S医大病院に行きました。

診察室に通されると、「お一人ですか?」と聞かれて、自分が透き通った薄っぺらな何者かのような気がして、寂しかったのを覚えています。

S教授は、私の持ってきたカルテを一通り見てから、笑顔で優しくご自分の書かれた「よくわかる乳がんの治療」というパンフレットを開いて、表を指差しながら、なめらかに説明をしてくださいます。
「あなたの場合、がんが3cm強で、リンパ節に転移があって、ステージIIbですから、『標準治療』で術前の抗がん剤治療と手術後の抗がん剤治療を選ぶことができます。抗がん剤は二種類で、三週間ごとに4回づつの点滴で合計8回。よく知っていますが、あなたの最初に行った病院でも、同じ抗がん剤を使っています。」

「え?同じ抗がん剤を同じ回数?」

「はい、『標準治療』では、そうなっています。抗がん剤治療を手術前にするのと、術後にするのとは、それぞれメリット、デメリットがあって…」

この辺まで聞いていて、だんだん訳がわからなくなってきました。「まさか、3cmでリンパ節に転移がある乳がん患者って、皆同じ治療を受けてるの?人によって、体質によって、症状によって薬の種類や量や期間が代わるんじゃないの?」頭がくらくらしてきました。

命にかかわる病気なんだから、もっときめ細やかに治療が選べると、勝手に思い込んでいたのかもしれません。

説明の内容は、最初の病院で聞いたこととほとんど同じで、とりたてて質問もありませんでしたが、一つだけ、印象が違ったのは、それまでは積極的に勧められなかった、手術前の抗がん剤治療がクローズアップされたことでした。

アメリカの国立がんセンターでお仕事されていたS教授は、日本では、お金を出してもテイラーメイドの特別な医療を受けられない代わりに、同じレベルの医療を皆が平等に受けられる、という意味のことを言われました。

「標準治療」。「乳がん」に、そんなものがあることに少なからずショックを覚えましたが、後で冷静になってみれば、私の病気も「標準治療」の範囲内に入れてもらったのだから、よし、としなければいけないのかも。何だか、おかしな「標準」(?)の範囲ですが…確かに。

最後に「前向きになりましょう」。この言葉を聞くためだけに来たように、うれしく感じました。